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夜明けまでは遠い
 ちろちろと小さく、焚き火の光が瞬いている。
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| 小話 | 01:53 | comments(2) | trackbacks(0)
23Dの闇
 その夜、ユルレはいつものように愛剣の手入れをしていた。
 所謂、草木も眠る丑三つ時である。
 窓から僅かに入る月の光に照らされ、誰が見ても禍々しさしか感じ得ないだろうそれの輝きが、しかし彼は好きだった。
 その窓の外からは虫の鳴き声と、少々風でも出てきたのだろうか、木々の擦れる音がする。
 そして窓と丁度反対側に位置する扉のさらに向こうから……何者かの気配が勢いもよく近づいてきていた。
 まるで走っているかのような速さだとユルレは思っていたが、それにしては足音がなさすぎる。まるで宙に浮いたまま走っているようだと思った瞬間彼はようやくある仲間のことを思い出した。
 仲間……レミールとテュルは隣の部屋で仲良く眠っている。この数日平和だったのはひとえにあの魔女のおかげだろうと彼は思った。自分とあの子供の二人ならばとてもこうはいかなかったはずだ。しかし今彼が思い出した仲間は彼女らではない。
 その時勢いよく扉が開き、まさにユルレが思い描いていた人物が飛び込んできた。そして、白い軌跡を描きながらユルレめがけてダイブ。
 みし。
 ……ユルレはとっさに剣を引き、ネイドを剣を持ってないほうの裏拳で撃沈させた。
 ちなみに、これ自体は割といつもの光景だった。
 現に何事もなかったかのようにユルレは手入れを再開しようとしていた。
 ……撃沈させられたネイドがそのままがばあと起き上がるどころかぴくりとも動かない、そんないつもとは違う光景を見るまでは。
「……」
 ネイドは現在ダンジョンに行ってくるとのたまったまま音信不通だった筈である。財宝が沢山と言っていた割に荷物は出かけた時のままだし、そもそも流石に帰ってくるのが早すぎるとユルレでも即座に思った程だ。何かあったのは明白だろう。
 しかし彼は結局手入れを再開した。何かあったのか今更いちいち聞くのも面倒臭かった。大方ダンジョン内にカジノでもあって、いつものように賭けたら大負けしてきたというところだろう。
 もしくはそのカジノで働くバニーを口説こうとして失敗したか。
 もしくはカジノでイカサマがバレて何も出来ないまま追い出されたか。
 もしくはカジノで。
 もしくはカジノで。
 ――手入れをしながら考えている時間は結構あったはずだが、やはりネイドが起き上がる気配はなかった。
 流石にカジノ以外でも何かあったかと思い、ためしにユルレは彼の頭の
 ……白く長い髪を掴んで思い切り上に引っ張った。
「痛い、いたたたたた!!!!」
 途端に頭を押さえて叫びだすネイド。
 当然といえば当然だった。
「……ち、生きてたか」
 欠片も悪びれる様子はなく、むしろ舌打ちまでしてユルレは髪をぱっと離した。べしゃりとくず折れるネイド。僅かに震えているように見えるのは気のせいということにして、ユルレはようやく彼に呼びかけた。
「で?」
 ……一言だけ。
 しかしそれでもネイドは反応したのか、ぴくりと肩を動かし、やがてのろのろと顔を上げた。
 何かは知らないが、酷く憔悴した表情だった。
 こんな顔をしているのをユルレが見たのは八年か九年ほど前にカジノで大敗して盛大に落ち込んでいた時以来だが、その時より更に酷い顔だ。
 ネイドは顔を上げたときと同じようにのろのろと、小さく口を動かした。
「……れみちゃんは……?」
「レミール?」
 あまりに小さな囁きだったが何とか聞こえたユルレは、彼女はとうに眠っている事を告げる。ただでさえ暗かった彼の顔が更に暗くなった。
「……なんてこった……じゃあ今起きてるのは抱きついて慰めてもらおうにもちっとも心休まりそうにない厳つい野郎だけ……」
「それだけ喋れりゃ問題ねえ」
 僅かなりとも深刻な表情を作っていたユルレはその一言で瞬時にいつものやる気のなさそうな顔に変わる。ていうかレミールに下手に抱きつこうものなら火達磨の刑が待っていること確実なのだが、それは仕方なく黙っておいた。ネイドも危険性自体は理解していることだろう。以前自らの身をもって体験していたはずだ。
「……俺」
 その更に暗くなったネイドは、唐突にだむ、と床を叩いて呻きだす。
「俺、ノンケだって言ったのに……!」
「はあ?」
 いきなり訳の分からない単語を言い出す彼にユルレは疑問の声を上げた。
 しかしそれには構わず、先ほどの呻きで勢いがついたかのようにネイドは叫びだす。
「『ノンケでも構わず食っちまう』とか冗談じゃねー!」
「?」
 今一話が分からないが、食べ物の話でもしているのだろうか。
「いつの間にかあんにゃろちゃっかりまたビデオ撮ってやがるし! もう嫌だ! もう嫌だ!!」
 涙が出せる体なら恐らく号泣しているだろう勢いで床を叩きまくるネイド。他の宿泊客の迷惑だろうとユルレは思ったが、それより気になる単語のほうに重点を置くことにした。
「ビデオ?」
「ああ……何度目だろうあのやろう……」
 実は何度目と言えるほど撮られてはいないのだが場にいなかったユルレにツッコめるはずがない。
 ユルレは袋をがさごそ漁り、目的の物を取り出すとネイドに見せた。
「ほほ笑みの黒子とか名乗る黒いのが丁度晩飯時におれに渡してき」
 たんだが、とユルレが言葉を続ける暇すらなく、彼が出した物……なぜかタイトルすら書かれていないビデオテープ、は、ダガーで滅多刺しにされていた。ユルレが思わずビデオから手を放すと、床に落ちたそれをネイドは更にげしげしと踏みつける。最早原型を留めていないまでに変形したのを確認すると、ようやくネイドは息をついた。
 そのまま、やたら黒い何かのオーラを出しながらネイドはユルレの胸倉を掴んだ。
「……見・て・な・い・だ・ろ・う・な?」
 常ならば余裕の笑みしか浮かべない彼らしくもなく、笑顔がものすごい勢いで引きつっている。ユルレはそのあまりの異変っぷりにふるふると小さく首を振った。見るための機器は(何故か)あったが、ビデオから紫色のオーラが立ち込めている気がしたためなんとなく見るのを憚られたのだ。ネイドは涙目で(いや泣きはしないのだが)ビデオを引っつかむと、ばたんと窓を開け放ち渾身の力で投げ捨てた。
 ……そしてそのまましゃがみこんで蹲った。
 全くもって、常時の彼らしくないとユルレは全力で思った。
「……大体俺はそっち方面なら明らかに攻め顔だもん……」
 とか更に訳の分からないことを呟きだす始末である。確かに防御には向かない装備と戦闘スタイルだが。
 とりあえず、『何か酷い目に遭って』、『レミールに存分に慰めてもらおうとして』、『時間的な都合によって叶わなくなった』から今こいつはここにいるのかとユルレは半ば無理やりに結論付けた。結論付けなければ訳の分からないままこんなうにうに、ではなかった別にうにうじやどくどくキノコやけばけばキノコを食べたりはしていないはずだ多分きっと、何の話だ、うじうじした奴を朝まで相手にしなければならなくなる。
 そうユルレが思っていると、ネイドはよろよろと起き上がって振り返り、ビッシとユルレを指差した。
「ちくしょー! もう争奪戦なんて行くもんか! たとえ何言われたって絶対行かねーからなばかやろー!!」
 涙目で叫ばれても少しも怖くないというか、何だ争奪戦って。お前遺跡に潜ってたんじゃ。
 しかしユルレがそれを口にする前に、ネイドはふわりと浮き上がると開け放たれたままだった窓から何処かへ飛び立ってしまった。脱力したかのようによろよろ飛ぶ彼の左手が腰の辺りを押さえていたように見えたのは気のせいだろうか。

 ユルレは暫くネイドの消えた方角を見ていたが、一つ息をつくと窓を閉め、その辺にほったらかされていた愛剣を拾った。どうしようかと思ったが、そのまま布を巻いてベッドの横に置く。自分も赤い布を取り去った以外はいつもと変わらない服装のままベッドに沈み込んだ。もう朝が近い。窓を見た。まだ光は照ってこない。
 それから先ほどビデオを取り出した荷物袋を見た。実は、あれ以外にももう一つビデオテープがあったのだ。そちらは普通にタイトルが書いてあって、ネイドの名があったことに興味本位で一人部屋に篭って見たことがあった。
 盛大に吹いた。
 レミールやテュルに見せてやろうかと思ったが、流石に哀れすぎたのでやめておいた。
(あんだけ取り乱すヤツが見れるんなら、ついていったほうが楽しかったか)
 夜の間だけ。そう思いながらユルレは目を閉じた。
 恐らくまたレミールか自分かに泣きついてくるんだろう、そんな確信めいた思いを抱きながら。






イジラレンジャーレッドは今日も元気です。本当です。ところで一応空が飛べる設定あったはずなんですが穴に落ちたりと見事に発揮されてないことに気づきました。大変です。
終わった後すら吟さんとシジマさんのプロフィールに超爆笑しましたありがとうございました。ギャグにしたかったんですが無理でした。ネタに走れませんでした。次はいつ争奪戦に参加しようかな!(懲りてねえ!)
| 小話 | 05:23 | comments(0) | trackbacks(0)
明けない夜と、子守唄
「なあ」
 月明かりが今は、煌々と木々を照らしている。
 そして彼らをも。
 風も雲も動物の鳴き声すらもない、とても静かな夜だった。
「……なあ」
 青年は隣で片足を投げ出し座る男に呼びかけた。
 先の一言には反応せずに空を見ていたが、再度の呼びかけには応じる気になったのか、彼はゆらりと頭を下げ、目だけ隣の青年に向けた。
「……何だ」
 一言。
 甘く響く重低音が静かに森に広がっていく。
 聞く者は共に大木に凭れ掛かっている青年だけだ。
 彼らの主である子供も、何にも負けぬ娘も、今は宿で休んでいる。
「――……いーや、」
 青年は口を開きかけ、……しかしごまかすように手を振った。
「呼んでみただけさ」
「……フン」
 それだけで興味をなくしたらしく、また男は空を見上げた。
 青年も釣られて空を見上げる。
 暗く青い空の中に孤独に月は浮かんでいて、そういえば星が見えないな、と青年は思った。
 見事な満月だった。
「お前はさー」
 やはり青年が口を開いた。
 男はもう一度彼を見たが、話す青年は先ほどと違って空を見上げたままだ。
「覚えてるのか?」
「何をだ」
「分かるだろ?」
 見上げていた目を男に向ける。
 月の光すら弾き返す金と、くすんだ月を受け入れる金が交差した。
「おれは、」
 先に男が目を逸らし、また空を……月を見上げた。
「……おれは、"Hurler"だ。それ以上も、……それ以下もねえ」
 ――そうだろうな。
 言葉を口には出さず、青年はずっと彼に向けていた目を閉じた。
 風もないのに木々がさわさわと揺れる。

 ……ネイドは、ユルレが人間であり、そして自分は違うことを知っていた。
 自分が"Neid"であり、しかし本当は"Neid"ではないことも知っていた。
 そして、知ったところで何をも変える事など出来ないことも知っていた。

(……このままじゃ)
 青年は自分たちが泊まっている宿のあるだろう方向に視線を向ける。
 そして眠っているだろう小さな子供を思い浮かべ、つと目を細めた。
(……待っているのは悲劇だけだぜ、テュル)
 全員が全員、知らぬ間に胸に響く助けを請うことすら出来ず、普通に振舞おうとしている。
 ……きっとあの娘を受け入れたのも、彼女の光に焦がれてのことだったのだろう。

「……あーあ、明日はレミちゃんでも誘ってカジノにいこっかなー」
「そんな金がどこにある」
 態と大きく伸びをしながら言うと、即座に隣から反応が返ってきた。
「ふふん、このネイドさまをなめるなよユルレくん。金なんてそこらのお金持ちからちょちょいのちょいさ」
「それで盗み損ねて危うく捕まりかけたのは誰だと思ってやがる」
「俺って昔のことは気にしない主義なの」
「……必死で謝り倒したのは誰だと思ってやがる?」
「……てへ☆」
「てへ、じゃねえ!」
 ……静かな森の中では、少しの大声すら怒号に変わる。
 ……もちろん、ばきっ、という、大木を割る音も。
 ……ネイドがユルレの鉄拳を避けた時に、代わりに犠牲となった木の割れる音だった。
 ……一瞬前まで共に凭れていた木が、ばきばきと盛大な音を立てて反対側に倒れていく。
「いやーんユルレんったら暴力的ー」
「……毎度毎度ちょこまかと……」
 諦めたのか気が済んだのか、男はその折れた木に再び凭れかかった。
 少し舌をぺろりと出してから、青年も倣って根元に腰掛ける。

 また口を閉ざしてしまえば、すぐに闇と草と木と空の香りがこの場を支配する。
 ――ここが世界の終わりな気がして、青年は目を閉じた。
 ……さわさわと、風もないのに木々の鳴る、音が――

 ふと、隣から静かな声が聞こえた。
 目を開き見ると、男が目を閉じながら何かを口ずさんでいる。
 あまりに小さくて殆ど聞き取れないが、しかし音というには余りに思いの篭った、
 ……その詞には覚えがあった。
 何処かで誰かが唄っていた、名もないような澄んだ歌の。
 空気を震わせることすら許さないかのような彼の『音』は、まさしく溶け出すかのように消えていく。
 周囲の静けさを、壊すことなく唄い続ける。
(いっそ、壊しちまえばいいんだよ)
 静かであるが故に、抜け出すことの出来ないこの世界を。
 しかしきっと彼はそれをしはしないだろう。
 青年は『男と最も長く付き合ってきた者』として、それを痛いほど知っていた。
 ……本当の自分も、きっと知っている。

(お前は昔からそうだよな、――)
 彼すらも知らない男の真名を心の中だけで呟いて、今はない風の音に耳を済ませた。
 ゆっくりと目を閉じる。
(夜の闇が、良く似合う……)






| 小話 | 19:47 | comments(0) | trackbacks(0)
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Dungeon Dive 弄り同盟 Nm. Neid(No.195)
Sta. 流星のレッド

↑なんていうかなんていうか。

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 FI/E-no:1346 Learga

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