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プロローグ
http://yaplog.jp/altitude57/archive/41



「近くに街があるみたいだぜ」
 少々古ぼけた地図の左端を指差してネイドが言う。
 言ったと同時に、木々がほんの少し揺れ、夏の初期の夜の月明かりと涼しい風を送り込んできた。
「あら、本当?」
 レミールは彼の地図をひったくって先ほど指されていたところを眺める。
 ネイドは慣れているのか何も言わなかった。
「へえー、近いじゃないの。えーと名前は、Lishmond……リシュ……リッシュモンド」
「本当!? じゃあもう野宿しなくていいの!?」
「当面はそうなるわねー」
 レミールが両手で持つ地図のさらに下の位置にある頭を上向かせてテュルが嬉しそうに言う。
「やったぁー! ふかふかのベッド! ふかふかのベッド!」
「ふかふかのベッドがあるような高い宿には泊まらないぜ言っとっけど!」
 ネイドが現実的な意見を言ったがとりあえずテュルは聞き入れなかったようだった。
 仕方ないといった風にユルレが彼の言葉に同調する。
「……実際問題、行っても金がねえな。換金所がありゃいいんだが」
 腰に下げた皮袋の中身、あらゆる国の通貨の山を見ながら呟いた。
「行ったって、どうせ無駄じゃない? また『このような通貨は見たことがありません』って言われるのがオチよ」
「そんときゃ、こいつらを通貨として両替でなく金だとか銀だとか銅だとかとしていくらになるか聞いて」
「そうして貰った金を俺が何十倍もに増やす、と」
「やったらシメるぞテメェコラ」
 ぎりぎりぎり。
 言ったそばから既に〆ていた。
「ぐふっ」
 どっかのボスの最後の言葉を残してネイドがオチた。
「ねーねー、街まではあとどのぐらい?」
 足元のネイドを爽やかに無視してテュルが問いかける。
「そうねえ……二日もあれば着くかしら」
「……まだそんなにあるんだ……」
 レミールから距離を聞いたとたん目に見えて落胆したように肩を落としたテュルに、いつの間にか復活したネイドが言った。
「はっはっは、今までに比べれば二日なんて問題ないない。それよりうっかり迷って二日が二週間にならないかが心配だ」
「不吉なことを言うな」
 仏頂面をしたユルレがネイドを殴る。
 ……うっかり迷いの森に入り込んで本当に二日が二週間になったことを彼らが知るのは、もう少し後のことだった。



「……いっちゃぁぁく!」
 ずだん!
 宿全体に響くかのような足音と共に、レミールは叫んだ。
 心の底から叫んだ。
 僅差で宿に入ったテュルがその場にへたり込み、ユルレとネイドはやる気がなさそうにぱしゃぱしゃと水を蹴って――否、ネイドは足音すらさせずに外の道を走ってくる。
 全員びしょぬれだった。
「いやーホントに二週間かかるなんてなー……門番さんが親切でよかったぜ」
「……親切っつうか……哀れみか危機感でも感じたんだろ」
「だろうなー……」
 森からようやく出た頃……その辺りは今にも嵐が来ようかという天候だった。
 来る前になんとしてでも街に行くべきだ、の提案により盛大な嵐との鬼ごっこが始まり、
 ……町の門番は、見事にずぶ濡れになった彼らについ気を使ったのか、手近な宿の場所を教えてくれた。
 ちなみにその宿の女将もつい気を使ってくれたのか、彼らが着くとあわてて飛び出してきて、タオルと二人部屋二つ分の鍵を渡してくれた。
「……突き当たりの、向かって左の奥から一番目二番目、と」
 かなりの距離を走ったはずだが、まるで疲れた様子を見せずにネイドは歩いていき指定の部屋の扉を開ける。
「お、なかなかいい部屋」
 どちらもなかなかに小奇麗な部屋だった。窓も両方きちんとついている。
「んじゃ、また後で」
「ええ」
 レミールとテュルは一番奥の部屋、ネイドとユルレはその隣の部屋に入り、扉を閉める。
 かくして数分後、四人は久々のベッドにダイブしたのだった。



 その更に数十分後。
「どうだった?」
 カチャリと扉を開けて入ってきたユルレにネイドが問いかけた。
「余程疲れが溜まってたんだろうな。二人とももう寝入っちまってるぜ。風呂にも入らず」
「やっぱりな。走ってでも街に来といてよかったぜ」
 自分たちはしっかり風呂に入ってきたらしく、ふわりとしたタオルを肩にかけたままにまりとネイドが笑う。
 どちらも既に宿にあった服に着替えて、……はいなかった。通常の旅装のまま、二人してベッドに座り込む。
「しかし、嵐すげーな……」
 笑ったまま、窓のほうへ目をやった。
 ざあざあという雨の音とごうごうという風の音に、ガタゴトと窓が揺れる。釣られたように窓を見ながら、ユルレは洗ったばかりの長い髪を弄んだ。
「さっきついでに女将に聞いてきたが、止むのは明日の朝って話だそうだ」
「うげ、朝?」
「朝だ」
「今でなく?」
「ああ」
「……換金とか情報収集とか、俺オンリー?」
「そうなるな」
「ギャーもう!」
 叫んでネイドは頭から向かいのベッドに飛び込んだ。
「……嘘だ。こんな嵐だが、行けねえこともねえだろ」
「うわ、そっちもなんつかアレだな」
「グダグダ言うな。換金と酒場で情報収集、どっちか選べ」
「情報収集させていただきます」
 ビッシとネイドはベッドから起き上がって敬礼のポーズをとった。
 ついでに酒飲んでいこうという魂胆が丸見えだったが、
「言っておくが、飲む金はねえぞ」
「そうだった……」
 ユルレの一言でがっくり肩を落とした。
「んじゃあ俺一旦ユルレについてって、換金終わったらそん中からそこそこ金貰って酒場行くわ。ないよりあったほうがしやすいだろ」
 めげずに提案するネイド。
「まあ、問題は換金所があって、なおかつこの通貨でも何とかなるかってことだがな……」
 提案には答えず、ユルレはまた皮袋を見た。
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ターン:1
http://yaplog.jp/altitude57/archive/42



「うわ、カオス」
 リッシュモンド周辺での金儲けの情報収集にはうってつけと聞かされた酒場『火猫亭』。
 そこに足を踏み入れたネイドの第一声はそれだった。
 一目見れば冒険者と分かる服装と面構えをした人間達が、外が大雨なのにも構わず喧嘩するわ宝を見せびらかすわ歌うわ寝るわ、……
(……混ざりてぇー……)
 その様子を冷静な目で見ながら、脳内ではなんともアレなことを考えるネイドだった。
 ひとまず適当なテーブルに座ると、横のテーブルから一際大きな声がする。
「金貨三枚! 金貨三枚!」
 何事かとその方向を見れば、片腕片足の男が地図を掲げて何度も叫んでいた。
(――あれがダンジョンってヤツの地図か?)
 ネイドはゆっくり席から立つと、男の周囲に群がっている人だかりの目立たないところに身を寄せる。

 "Dungeon"。
 つまりそれは、古代遺跡の総称らしい。
 街まで走ってくる間に小さな祠のような物を目ざとく見つけていたネイドは、遺跡か何かがあるのかと宿の女将に聞いていた。
 ……遺跡目当てではなかったのかと驚かれたほど、この周辺には古代遺跡が点在しているらしい。
 それらは『ダンジョン』と呼ばれ、中には迷宮と魔物と貴重な財宝てんこ盛りだということが分かっていると聞かされた……時、見事にネイドの脳内から迷宮と魔物の文字は消え去った。
 財宝てんこ盛り。
 売れば、金。
 いいことじゃないか。
「ところでおねーさん、そのダンジョンの情報が入りやすい酒場ってドコ?」
 ネイドは満面の笑顔で女将に聞いた。

 気づけば男の周囲にいるのは自分を含めてもたった三人になっていた。
 しまった、と思ったがもう遅く、男はネイドたちを順繰りに見つめて大きな声で言う。
「お前ら運がいいぞ。このダンジョンは、まだ人に知られちゃいねえ」
 ……即、怪しいと思ってしまったネイドだった。
 まだ知られていない、などと豪語されて買った宝の地図は、大抵が宝なんて他の人間に既に先取りされている場合が多いのだ。……そしてそれは、虚しくも経験談だった。
「本当は俺が自分で行きてえんだが、まあ見ての通りのありさまでよ。お前ら丁度三人だ。一人一枚ずつ金貨を出してこの地図買わねえか? そんでパーティー組んでダンジョンへ行けばいい。俺は金貨三枚で我慢するよ。ダンジョンの宝は全部お前らのもんだ」
 その言葉にネイドは自分の皮袋を見る。一応、先に換金所へ行っていたためユルレから四枚ほど金貨を貰っていた。
 ちなみに両替は最早当然のように駄目だった為、ただの金銀銅として鑑定してもらった結果割といい額になった。……ユルレとネイドの二人掛りで脅した結果とも言う。
 ネイドは残っている二人を横目で見た。

 一人は朴訥そうな少女だ。薄い茶髪を後ろで一つに纏めるのは出来立ての麦色をした布、黒とも緑ともつかない色をした目を興味深げに男へと向けている。
 もう一人は何処か人形めいた完璧な美を持つ少年だ。だが今は眉を少ししかめ、男を碧眼で睨みあげている。風もないのに短い金髪がさらりと揺れた。
 少女はともかく、少年のほうはひょっとすると同じように胡散臭く思っているのかもしれない。だが二人ともその場から動こうとはせずただ無言で男を見上げている。
 どちらも、俺とそう歳は変わらないか。ネイドは思った。いや、多分自分のほうが圧倒的に年下なのだろうが――
 この三人で行けと男は言う。売れるならば誰でもいいのか、もしくはいいカモだと思っているのかは定かではないが、……他に地図や情報を持つ者は今この酒場にはいないようだ。遺跡に行こうと思うならこれを買うほかないだろう。
(ま、あいつらものんびりするいいチャンスだろうしな)
 宿でまだ眠りこけているだろうレミールとテュル、そして眠らず剣の手入れをしているだろうユルレを思い浮かべた。
 宿に三人数日休めるだけの金はある。ついでなので、ここらで息抜きでもさせてやろう――ネイドは他の二人が何かを言う前に出来る限りのいい笑顔で言った。

「おっちゃーん、買いたいけどさぁ、地図の相場は金貨一枚だろ?」

 片腕片足の男とネイドの二人で繰り広げられる壮絶な地図代値切り合戦を見つめる少年少女の目は、……おそらく呆れ果てていたことだろう。



「ダンジョンだぁ?」
「おうよ」
 結局値切り合戦に負けたネイドは、地図を少年に預け一旦宿に帰ってユルレに報告した。
「地図の左下に『呟くもの』って書いてあってな、それが通称らしーんだけどもよ。聞いた話じゃ『同じ死を待つもの』ってダンジョンもあるらしい。そっちはほんとのほんとに前人未到で」
「……」
「どっちにしろ財宝が見つかりゃあ、暫く遊んで暮らせるかも知れねーぜ」
「……」
 ユルレは無言だった。
「わかってるだろうな」
 そうして呟かれた言葉にネイドもまた無言になった。
「おれ達は」
「――大丈夫さ」
 ネイドは窓を見る。
 あれほどまで吹いていた風も、打ちつけてきた雨も、酒場を出るころには殆ど止んでしまっていた。
「知ってるか? あれは俺とレミちゃんが一緒にいるときでないとならないんだぜ」
「……そうか」
「だからさ、俺が潜ってる間はのんびりしてけよ。アイツはレミちゃんに任せて一人でぶらっとすんのも悪くねーだろ」
「……レミール一人にあのじゃじゃ馬を任せられると思ってんのか」
「あー、お前そーいや知らねーもんな。アイツ昼間とかもうレミちゃんにべったりだぜ。目に見えて懐きまくり」
「皮被ってんだよ。猫の」
「そうかもしれねーけど、寧ろだからこそ大丈夫だろ。お前と二人っきりにしたらそれこそどーなるかわかんねー」
「……まあな」
 それきりユルレはまた口を噤んだ。
 ネイドはまた窓を見た。そろそろ朝日が昇ってくる頃だろうか、空の端が少し明るくなっている。
「『寝る』か? そろそろ――」
 言いかけて振り返ると、既にユルレは『眠って』いた。
 ネイドは笑った。
 苦く。



「――ダガーOK、ロープOK、針金OK、ランタンOK、あとそれから――」
 『パーティメンバー』との待ち合わせ場所でネイドは皮袋の中身を確認していた。
「……よっし、All・OK」
 朝日がようやく山の端から煌きだす。雨に塗れた地面に乱反射して、それは幻想的な光景だった。
 まだ誰も来てはいない。どころか周囲に人影すらなかったが、ネイドの気分は上々だった。
 暇なので左腕に巻いた黒いバンダナをしゅるりと解き、日の光に透かしてみる。
 黒の中一点だけ突き刺すように光る白い光は、開いたパンドラの中の唯一の希望だ。

 この世界での"Epilogue"はきっとまだ遠い。
 ならばいつか還る刻までせいぜい楽しんでやろうではないかと、ネイドはやってきた少年と少女に向けて大きく手を振り、そして言った。

「俺はネイド。世界を股に掛ける探険家さ!」






 そして遊ぶつもりがうっかり遊ばれる側に移行する、と。
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ターン:2
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 金髪の少年が無言で広げた地図をネイドは覗き込んだ。
 古代語は少し齧った程度しか分からない彼だったが、地図に書かれたそれはそう難しい言葉でもなかった為何とかなった。海岸線、地形の形も間違っていない。
 故に、金髪の少年が無言で広げた地図をネイドは覗き込んだ。そしてその目を地図の中心、斜十字の印が付けられた箇所へと向け、それから地図より目を離し真正面を見据える。
 そこにあるのは小さな祠だった。石で作られたその祠は大人一人が漸く入れる大きさの入り口が一つ、その入り口から伸びる地下への階段しか地上からは確認できない。周囲には何らかの象徴なのか、複数の石像が設置されている。
(――竜の型が一体、馬の型が四体、鳥の型が七体か)
 現在地と目的地の照合を少年と少女に任せネイドは計十二体の石像群を慎重に調べていった。やがて全てに何の仕掛けもないことを確認すると、改めて彼らが立っていた入り口の前へと戻る。
 報告も兼ねてあえて現在地を訪ねる彼に少女は首をかしげ、少年は頷いた。
 ……彼らの目的地、『ダンジョン・ムター』はここで間違いないらしい。
 ランタンに火をつけ、彼らは階段を下りていった。

「あっれ、開かないぜ」
 暗く長い階段を降りきった途端に、ネイドの素っ頓狂な声が遺跡に小さく響く。
 彼は突き当たりにあった鉄製の扉を開けようとして、押したり引いたり鍵穴を探したりを繰り返していた。そのうち扉についた三つのダイヤルを見つけ出し、罠がないか確認してから先ずは適当に回してみる。――何の反応もない。
「少し、そこをどけ」
 今度は少年の声が響いた。素直に譲るネイドが今までいた場所に彼は座り込み、持っていたランタンを掲げる。暗がりで作業していたネイドには分からなかった古代文字は、『地を駈ける三頭の馬と、天を舞う三羽の鳥は、竜に食らわれる』と書かれていた。さらにダイヤルには其々竜と馬と鳥の絵が彫られていて、一通り見終わった少年は小さく鼻を鳴らす。
「試しているのか、子供騙しなのか……」
「――まー、後者じゃないのかね?」
 横からそれらを覗き込んだネイドも少々呆れ顔になった。少女は彼らの後ろでにこにこ笑っている。
「消去法で考えれば、これで開くはずだ――」
「……そうそう、そっちが一で、そっちが……」
 青年の茶々を横から受けながら少年がダイヤルを回していく。そして数字を合わせ、ゆっくりと手を離した。三人が見守る中、扉は少年がそれから手を離した速度より更にゆっくりと開いていく。
 開ききった扉を見てネイドが指を鳴らした。
「ううんカンペキ! 俺達ってばあったまいいー」
「当然の結果だ」
 少年は何の感慨もなさげに扉の先を見やる。
「素敵な食材を探し求めますよ〜」
 ……少女はどうも、これから先に何かを見据えているようだった。

 その少女が何故か持っていたダンベルを少年がツッコミをくれながら扉の脇に投げ捨てた後、彼らはようやく扉をくぐった。
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ターン:3
http://yaplog.jp/altitude57/archive/44



「――おっとそこを動くなよ! 動いてもいいけどな」
 若者特有の澄んだ声が地下の薄暗い通路に響く。
 風を切る音はしかし、彼のそれより更に澄んでいた。
「――だって俺の『鷹の目』は、常に急所を刺すのだから」
 ……どうっ。
 鈍い音を立てて、トカゲと人間を混ざり合わせたような奇怪な魔物の体が床に倒れこんだ。
 首から上はなく、僅かに痙攣していたその体もすぐに躯と化す。残った首はと言うと、剣で綺麗に切断された断面もそのままに、通路の壁に縫いとめられていた。縫いとめているのは、眉間に深々と突き刺さった一本のダガーだ。
 血のついたショートソードを軽く振り息を整える少年は、……いらついていた。
 この上なくいらついていた。
 血を拭ってから剣を鞘に収め、「この気楽人どもが」と小さく呟く。呟いたところで、いらつきが最高潮に達したようだった。
「次から次に、何で僕はいつもこうやって厄介なもんに巻き込まれるんだぁッ!!!」
 白目を剥くほどの勢いだった。
「わあルイスちゃんたら。鉄分とかカルシウムとか取ってるかーい?」
 ネイドはにこやかに、流した。
「怒りっぽいのはイヤーよv」
 我ながら最上級かもしれないと思える笑顔も付けた。
 ……見事なまでに無駄だったらしく、少年のオーラがものすごいことになっていく。
 割と範囲外にいた少女は息絶えた魔物を見ながら小さく呟いた。
 真顔で言った。
「焼いたら美味しいのかな? 珍味?」

 ……ルイスとネイドは同時に彼女と魔物から、全力で目を逸らした。
 ……少女の職業が料理人だということを、彼らは遺跡に来る前に聞いていた。
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ターン:4
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「僕はルイス。錬金術師だ」
 仄かな明かりが照らす通路を三人で歩きながら、ようやく少年が名乗った。
 少女もまたようやく名乗り返す。それに頷いた後少年は初めに名乗ったからと特に何も言わないネイドを見、それから先ほど屠ったリザードマンを放置した通路を振り向き見、また少女を見、そしてまたネイドを見た。
「――ふん。腕は確かだ。それだけは認める」
 だけ、の部分があえて強調されたように思えたのは恐らくネイドの勘違いではない。
「はっはっは、お褒めに預かり光栄さ」
 だがネイドはとりあえず勘違いと言うことにした。
 勘違いと言うことにしたが、どうも返って逆効果だったらしい。少年は通路に響き渡る声で怒鳴った。
「……貴様のその楽観な性格が許さん!」
「わはは、そんなこといわれてもー」
 笑いながら少年より歩を早めていくネイド。説教を言いながら足早に追いかける少年に、にこにこ笑いながらしんがりを歩いていく少女。
「これで宝がなければ……!」
 更に言い募ろうとした少年だったが、ぼす、と言う音と、それと共に止まった歩みと共に言葉も止まってしまった。見るとネイドが目の前、通路の真ん中で立ち止まっている。
「――なんだ! 急に立ち止まるな!」
 彼は無駄に背が高いため、塞がれると前が見えない。一歩退いて再び怒鳴った少年に(少女は激突など華麗に回避したらしい)、ネイドは振り返った。
「いやあ」
 間の抜けた声と共に通路の先を指差す。
 ……そこにあったのは、初めて出た広い部屋と、それを埋めつくすかのように巨大なテントだった。

「人肉、金貨二枚。エルフ肉、金貨二枚。ドワーフ肉、金貨三枚。……」
 テントの入り口、その近くに立てかけられた看板に書かれた文字を少女が読んでいく。
 少年はその様子を眉をしかめて腕を組みながら見つめ、ネイドは部屋を見回した。
 今まで一本道だった通路から一転、本当に広い部屋だ。人間族ならおそらく詰め込めば四十人程度は入るだろう。テントの中と限定しても、二十五人は入るはずだ。ひょっとすれば三十人入れるかもしれない。
 そのテントはあまりに大きく、部屋の端から端まで届いているせいで外から回り込んで通り抜けることは難しそうだった。他にテントに入らずに部屋を通り抜ける方法がないか探したが、どうにも無理があるようだ。
 ネイドが舌打ちをして入り口へ戻ったその時、部屋の随所に設置してある明かりに照らされ、店は不気味にうごめいた。
 店。
 ……そう、テントの入り口横の看板には、大きな文字で『バジリスク肉屋』と書かれていた。
「……見掛け的に怪しすぎやしないか?」
「いやあ、うん、まあ」
 少年の言葉を否定など出来るはずもなくネイドは言葉を濁した。
「どうせ嫌だと言ったところで入るに決まりなんだろ」
 はあ。
 盛大な溜息が部屋に小さく響く。
 少年は隣を見た。
 「人肉は金貨二枚かー」などとほざきながら彼を見返したネイドにはとりあえず鉄拳を、くれようとしたが逃げられた。
 少年は逆側の隣を見た。
 ……少女は、料理人の血を燃え上がらせているようだった。
 少年は溜息を、もう一度吐いた。
 ……はあ。
 一回目の溜息よりも大きく響いた気がした。
 三人はテントに入っていった。
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ターン:8
http://yaplog.jp/altitude57/archive/49



「えー火と風と土、で風は映らねーなら……」
「そうだ、族長の言葉とともに、数列に置き換えて水増しの計算を……!」
 ある意味でよくある罠の仕掛けられた部屋。
 駄目元と扉を蹴りつける仲間を横目にダイヤルを回そうとすると、迫り来る天井を両手で抑えている別の仲間の声が、背中から聞こえる。
 ダイヤルに添えた手を止めて、ネイドは思った。
 そんな必死な声を聴いてしまうと、

 ……ついふざけたくなってしまうではないか。

「ふーんふーふふーんふーんっふふーん♪」
「頭を使え! 馬鹿! 勘に頼るなーーーー!!!!」
 鼻歌を歌いながら適当にダイヤルをまわしたら必死とか何かそういったものを超越した声で盛大に怒鳴られたので仕方なく正解の番号に合わせると、歯車の合わさる音と共に目の前の扉が重い音を響かせながら開いていく。
 イエースイエースと頷きながら笑顔で後ろを振り向いた。
「ネイド様のカンは今日も冴え渡ってるぜ☆」
「勘に頼るなと……勘に頼るなと言ったろうが僕は……ッ!!」
 止まった天井のすぐ下で正にorzな姿勢で蹲っている仲間を見て彼は思う。
 とりあえずこの地下遺跡にいる間は全てを勘で判断していこう、と。
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ターン:10
http://yaplog.jp/altitude57/archive/51



 ネイドは見ていた。
 なにをって、それはもう、彼の趣味を参照の。
「フフフフフフ……さあ丁かー半かー一かー八かー!?」
 ……ネイドは見ていた。
 賭博場の中の一部屋、丁半賭博をやる部屋の、中央に座する壷振りが、振る、壷を。
 実は仲間の一人がツッコミに疲れて彼から5Mほど離れているのだが、見えていなかった。
 むしろツッコミそのものが、完膚なきまでに耳に入っていなかった。
 ていうか目がイっていた。具体的には、何処か別のウフフでアハハな世界に。
 ちなみに『一か八か』は『丁か半か』の『丁半』のそれぞれ上の字を取った言葉らしいぞ! 覚えておくと割と無駄だ!

「コマ、揃いました」
 暫くの後、壷振りが壷を開く。
「うっしゃあロッピンーーーー!」
 結果を見た途端にネイドは賭け札を折れるぐらい握り締めてガッツポーズをした。
 半だった。
「いよーし! この調子でもう一勝」
 負、と言おうとした彼が固まった。賭け札を折れるぐらい握り締めてガッツポーズした態勢のままずるずると賭博場の出口へと引っ張られる。
 あわてて後ろを振り向く、が見えるのは出口の光のみ。仲間達……は特に引っ張られもせず出口へと歩いている。一部なにやら紫色のオーラが見えたがネイドは一瞬で目を逸らした。

 ……そう、彼は知らなかった。この世には、決して抗うことの出来ないものがあることを。
 ゲームの仕様という、都合というストーリーという参加キャラである以上抗えないそのシステムを!

「えっちょっと待って、もう一勝負!! 俺のもう一勝負ーーーー!!!」
 痛恨の叫びも虚しく、何も知らないネイドは出口までずるずる引きずられていった。

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ターン:14
http://yaplog.jp/altitude57/archive/55



 ルイスは奥から1番目の棺を開けた。
 棺の中には干からびた死体があるだけだ。他には何もない。
 ネイドは奥から0番目の棺を開けた。
 棺の中には干からびた死体があるだけだ。他には何もない。
 マリーは奥から0番目の棺を開けた。
 棺の中には干からびた死体があるだけだ。他には何もない。

「……」
 
 とりあえずネイドはその体制のまま固まっていた。
 0番目ってどの棺だよ俺とかって言うかなんでこんなこと一言も発さず黙々とやってんだ俺とか以下略とか以下略とか色々思うことはあったはずだが、とりあえずネイドは奥から0番目の棺を開けた体制のまま固まっていた。
 金色の瞳に移るのは、棺の中に眠る干からびきったもの。
 今までひやりとしていたはずの部屋の温度が急に上がった気がして、ネイドは少し上ずった声を発した。
「――ルイスちゃん」
 今か弱い少女(だと思う多分おそらくきっと)に声をかけるのは得策ではないと思ったのか、もう一人の少年の名を呼ぶ。
 ……実はネイドと同じく固まっていた彼は、ややあってぎぎ、と首だけネイドに向けた。
「……何だ?」
「あのさあ……」
 死体から一時たりとも目を離さないままネイドは続ける。
 ……金色の目が光った気が、した。

「この死体全部持って帰って肝試しに使」
「断る!!」
「死体が出てきてコンニチハなんてクエストとっても素敵だと思」
「ガァーーッ!!!」

 部屋の温度がおもっくそ下がった気がした。
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エピローグ〜宿屋『木蓮亭』
http://yaplog.jp/altitude57/archive/62



「たっだーいまー!」
 がちゃっ。
 ネイドは勢いもよく部屋の扉を開けた。
「"Saint Run"!!」
 どか。
 ……レミールの魔法が勢いもよく当たった。
「………………って何すんだよいきなりよ!」
「あらネイドだったの、おかえり」
「今更かよ! せめて対象確認してから魔法放ってくれよ! あまりの歓迎の仕方に今数秒倒れたまま硬直してたよ俺!!」
「そうねーアンタだってわかってたらもうちょっと上級の魔法使ったのに」
「殺す気!? ……ていうか何やってんの二人して」
 鼻を押さえながら起き上がり叫んでいたネイドはレミールとテュルを見て少し半目になった。
 二人して木目の床に座り込み、ハートだとかスペードだとかの模様がいくつか描かれた奇妙なカードを一部を床に置き残りを二人で持ち、それぞれから一枚ずつ引いていって同じカードが二枚揃えば床に置く動作を繰り返す、詰まる所。
「ババ抜きだよ。ネイドやる?」
「途中で乱入なんてしねーよ」
 トランプを見せてくるテュルに(ネイドはその中にジョーカーを発見したがレミールの手前黙っておいた。二人でやっている以上彼女も気付いているのだろうが)軽く手を振って拒否の意を示してから、ふと部屋を改めて見回した。
 安い宿の一室、だけあって簡素なのは彼らが初めて訪れたときと変わらない。ただその中に、……何か素材のよくわからない布にこれまた素材のよくわからない塗料で描かれた魔法陣だとか、明らかに何かやらかそうとして失敗したものだとわかる真っ黒な塊だとか、何か作ろうとして途中で放棄したらしき檜の棒だとかが追加されているのがなんというか、気になる。
 しかしこれは聞いてはいけない。下手に聞いたら自分が魔法の実験台になったり合成の実験台になったりする可能性がないわけではないのだ。ネイドは別の話題を出した。
「ユルレはどったん?」
「隣の部屋でぼけーーーっとしてるわよ。あいつ『ばばぬき』何度誘っても断ってくるのよ」
(そら断るだろうよ)
 あんなガタイのいいのが女子供に混じって平和にババ抜き。考えただけで微妙な気分になったので、そのままネイドは笑顔で部屋を出た。



「やっほうユルレん」
 先ほどまでいた隣の部屋から叫び声が聞こえたのは無視することにして(恐らくレミールにジョーカーがいったのだろう)、まずは背負ったままだった荷物袋を部屋の端へ置く。それからネイドは呼びかけても静寂しか返してくれないユルレを見た。彼は自分のベッドに座り込んで、窓から見える空をぼんやりと眺めている。……ように見えてどうも眠っているようだった。窓の方向を向いた頭が時折かくんと下がっている。先ほどまで小雨が降っていたせいもあり、月明かりは殆どない。
 ネイドは荷物袋から目的の物を掴むと、ユルレのすぐ隣に、起こさないようそっと座り込んだ。
 出した物を口に当てる。
 ぷうぷう膨らませる。
 ぷうぷう。
 ぷうぷう。
 そうして膨らんだものをユルレの耳元へと持っていく。
 ……せーのと掴んでいないほうの手を振りかぶり、

 ぱぁん!!!

「おあっ!?」
 ……耳元のとんでもない音量に、思わずユルレは飛び上がりそうになった。
 とりあえず、これでもかと目が覚めた。覚めまくった。ということを確認したネイドは、にこやかに大音量の元、っていうか、紙袋、をひらひら靡かせながら言った。
「オハヨウゴザイマスv」

 ……起きた早々鉄拳が飛んだ。



「……暴力的、なんだから……」
「どっちがだ?」
 よほど痛かったのか再び鼻を押さえながら(指と指の隙間から血が垣間見えていたことについて、ユルレは見なかった振りをした)、ネイドはよろよろベッドに座りなおす。その様にふと違和感を感じたユルレは、思ったことをそのまま口に出した。
「……今のは避けられただろう、お前」
 『避けられる攻撃はツッコミだろうが暴力だろうが全部避ける』という微妙によくわからない信条を持っているネイドにしては珍しいと思っての言葉らしいそれに、ネイドはどこか生暖かい笑みで返した。
「ああ、うん。なんか知らん間にボケとツッコミを体張って受け止める体質になっちゃったっぽい?」
 微妙にユルレから目を逸らしている。きっと彼の脳内では『弁慶の泣き所アタック』や『ロダン(×2)シュート』やその他諸々がフラッシュバックしていることだろう。
 そんなネイドの心情などこれっぽっちも知らないユルレは、しかしその件はとっとと切り上げ、座りなおしてベッドをきしませた。
「金はどうだった」
 そう、別に妙な体質になるために行ったわけではなく、あくまで目的は金だった筈だ。ユルレが言うと、今度は得意げな笑顔になったネイドが自分の手元に荷物袋を引き寄せ、がさがさ漁る。
「ジャーン!」
 じゃら、という重たい音に合わせて取り出された皮袋が揺れる。ユルレの目が僅かに見開かれた。
「……幾らだ」
「金貨二百枚」
 ストレートな問いにも満面の笑みで答えるネイド。
「あとな、鉄で出来た扇だろ、簪だろ、惚れ薬だろ、点棒だろ、それから」
 ぽいぽいと、それこそ山となりそうな量の荷物を小さな荷物袋から出していく。……金貨以外全て下らない物のような気がしたユルレは、しかし口を挟みはしなかった。
 彼らが座り込んでいるベッドの隣、つまりネイドのベッドにごちゃりと詰まれた荷物。よくまあここまで詰め込んだものだ、そう思いながらそれらを眺めていたユルレは、ふとその中の写真に目を留めた。
「……」
 ……思わず眉を顰めた。
「何だこれは」
「スク水二号とガーターベルトのラビリンス」
 しれっと即答するネイド。写真にはネイドとさほど歳の変わらないように見える……少年たち、が、いわゆるスクール水着(それも女物だ!)やガーターベルトを装着した姿が映っていた。ユルレは目を逸らした。窓を見たが相変わらず月は雲に隠れたままだ。
「……お前」
 ややあって、何かに呆れたかのようにため息を一つついた。
「いつのまにこんな趣味が」
 ……実際に呆れているようだった。
「俺じゃねーよ」
「写真持ってる時点で同罪だろうが」
「あーうん、まあ」
 ネイドは言葉を濁した。『自分もさせられたから腹いせに』という言い訳のような事実は何とかして喉の奥に仕舞いこんだ。ちなみに目の前の彼はその事実もなんとなく察していたが、人の心を読めないネイドにわかるわけもない。ユルレに倣って窓を見たが特に面白いものもなく、また彼は視線を戻して写真を荷物袋の小物入れに突っ込んだ。突っ込んだのを見届けたところで、ユルレが口を開いた。
「で」
 ……一言。
 ネイドは荷物袋から手を離し、ユルレのベッドに座りなおすと、そのまま勢いよく後ろに倒れこんだ。ぼふっ、という音と共にシーツに沈み込む。同時にぎしっと言う音もしたのは、単純に安い宿だからだろう。
 隣の部屋から楽しそうな笑い声が聞こえる。テュルだ。あれはあのテの勝負事には強かったなと沈み込んだままネイドは思った。カジノに行けば俺より稼げるんじゃないのか。イカサマを抜いたらの話だが。
 ネイドは答えた。
「楽しかったぜ」
「そうか」
 また一言だけ返ってきて、それだけかよと思わず呟く。そんな彼を一瞥した後、相変わらずの仏頂面を崩さないままユルレはため息を、もう一つついた。そうして口を開く。
「で」
 また一言だけ。
 面白くなさそうな表情をしたネイドの顔をあえて見ずに、もう一度同じ言葉を呟く。
「……へいへい」
 唇を尖らせて、腕を頭の上へやるネイド。その腕を前へと大きく振り、勢いで沈み込んだ状態から起き上がる。
 「何から話そうかね」、と手を口元に当てながら座りなおした。






 話し込んでいる間に雲はすっかり晴れてしまっていたようだった。
 淡い月明かりを窓から差し込ませながら……しかし自分は月の光に当たらない場所に身を寄せ、ユルレは眠りこけるネイドを見た。なんだかんだで疲れが溜まっていたのか、何をしても暫く起きないだろうということが一目見ただけで分かってしまう。

 片付け損ねたのか無造作にベッドの上に置かれたままだったメモ帳をゆっくり取り上げ、ぺらぺらと捲る。とりとめもないことばかり書かれているページから全体にびっしり文字が書かれているページまで様々だが、目当てのページを発見してユルレは手を止めた。

『地下遺跡:通称「ムター」』
『俺以外のリッシュモンドの冒険者がもしこれを見てるなら、何だ、ネタバレ注意な』






 ……あらかた読み終えて、ユルレはゆっくりメモ帳を閉じた。
 眠りこけているネイドの枕元にそれを置き、床をきしませないよう静かに足を動かしながら部屋を出る。まだ僅かに声が聞こえる隣の部屋の前で立ち止まり、レミールに相談する内容を言葉に出来るよう脳内でシミュレーションしながら、ユルレはわざとガチャリと音を立たせて扉を開いた。
「……てめえら、いつまで起きていやがる!」
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